呉服屋は怖くて、着物業界は詰んでいる?

なぜ呉服屋は怖くて着物業界が詰んでいるのか

話題になったツイート、単なる着物好きな私のところにも「こんなん出とるで」とお友達からLINEが飛んできたりしました。

それは事実かもだけど、事実だけ言い切っても、せやね、で終わって尻すぼむだけなので、個人的に思ったことを以下、書き連ねました。

目次

なぜ呉服屋は怖くて着物業界が詰んでいるのか

先程のツイートは、端的に言えば、着物業界が詰んでいく理由は以下が挙げられるねという話です。

  1. 営利目的で故意に着付けを複雑化→着物離れ
  2. 「高級呉服」を高額で強引に販売→着物離れ
  3. あまりにもひどい中間搾取→2に繋がる

ここだけ見ると、着物って怖いね、ひどい話だ…というところで終わってしまうんですが、これはこういう話でもあります。

  1. 着付けって皆が思っているよりも実際はシンプルで簡単
  2. 「高級呉服」枠を避けて買い物をすれば怖くない
  3. 産地での直接購入など、中間業者を極力省いた販売を意識するともっと手頃に買える

3に関しては詳しくないので、1と2だけ自分がわかる範囲で言い方を変えて、ちょっと書いてみたいと思います。

着付けの実際は皆が思っているよりもシンプルで簡単

着物の着付け。正直、洋服みたいにストンとかぶったら終わり、ではないので、本当に究極シンプルかと言われるとちょっと微妙かもしれません。でも、浴衣だったらサッと羽織って、裾の長さを自分に合わせて2本の紐で留めたらだいたい終わり。きっと世間で思われているよりだいぶ簡単です。

これはこの後の話にもつながるんですが、昭和平成の着物って「礼装」にフォーカスされていたんです。礼装、洋服で言うとフォーマルドレスは、シルクのドレスとか高級スーツとか、そういうやつ。カジュアルめでもホテルのパーティとかで、上は結婚式などの「式典のための装い」。

で、そういう「晴れの場」での服装は相手を立てるためのものなので、当然失礼があってはいけなくて、正しく美しく規範通りである、というのが求められます。服自体のコーデ(格ってやつ)もそうだし、着こなし(着付けだよね)もそう。

となると、礼装の「着付け」がガチガチでめんどくさいことになるのはお察しいただけると思います。童話のお姫様だってパーティにはコルセット締め上げて髪結上げて「めんどくさいわ…」とため息をつきながら出席してますから、着物だってキッチリがっちり着付けして「疲れるわ…」となるのはそりゃそうです。そういう場のための服装であり、準備なので。

で、着物の着付け教室の話なんですが、着付けの先生方は基本的には着付けは礼装での仕上がりを想定されてるんですよね。きちんと、美しく、崩れなく。

だから、洋装ミックスなんて邪道だし、それはいけない、古着なんてありえない、これは時代遅れだから恥ずかしい、などと言うのも「正装の場」での「美しい完璧な姿」を求めての話

  • 着姿にシワは美しくない
  • 襟の合わせは喉のくぼみくらい
  • 襟の抜きはこぶし一つ分
  • 耳の位置より後ろは半襟は出さないで
  • おはしょりはモコつかせずピシッと

そう、これはぜーんぶ正装の場合です。さらに、完璧に着付けても動いたら崩れてくるから、じゃあそれをサポートしてくれる「着付けの小道具」があったら便利じゃない? それをオリジナルで教室で売ったら儲かるじゃない? というので生まれてきたのが実家に眠ってるような謎の着付けアイテム。実家のタンスの奥とか探るとなんかありますよね、帯板と一緒にしまってあるドデカクリップみたいなよくわからない器具。あれ帯の上のとこを支えるための道具らしいんですけど…

そういう小道具を着付けに組み込むと、ただ紐で縛っておしまいだったはずの着付け工程がどんどん複雑に、謎に高額(小物代がかさんでいく…)に…

営利目的で故意に着付けを複雑化→着物離れ、という最初の話になるわけです。長くなりましたが、以上の話は、

つまり普段着で着物を楽しみたい人には無関係です。

相手があっての礼装に対し、自分が好きで好きなように着るのが普段着。おわかりですね、普段着着物だったらよく着付けで言われる小さなルールは全無視したっていいんです。だって好きで好きに着る服だもん

だから普段での着付けに特殊な道具は必要ありません。紐で結ぶだけの着方でいいし(もちろん好みで道具を使いたかったら使ったっていい、選択の自由!)、あんまり細かいルールは馬鹿らしいから気にしなくてイインダヨ…

たとえば、個人的には半襟は着物を汚さないための襟なんだから、普段ならたっぷりめに出しつつ肌に当たる箇所は全部出てて良いと思います。あとはその見た目が自分の好みかどうかってことだけ。己の美学の問題。

ただ、しつこく言うことになっちゃうんだけど、相手のための場では「自分のための装い」を求めちゃダメで、その時だけは全力で、完全に相手のためだけに何を着たらふさわしいか、喜ばれるか考えてコーデするのが素敵かなーと思います。

「高級呉服」枠を避けて買い物をすれば怖くない

店頭では安い商品を並べて奥ほど高級品、これが基本的な呉服屋の構え…

次に呉服屋の話。まず最初に、試しに着物が買いたいな…という人が呉服屋さんに行くのはおオススメしません。夏のお祭りで「明日着る浴衣欲しいな〜」って時も同じです。

なぜなら、今の着物屋さんを構成するスタッフの皆さんは昭和平成の人たち。さきほども出ましたが、昭和平成の着物はほぼ「礼装。必然、お店も礼装が中心になります。

「礼装」は洋服で言うならドレス。呉服屋さんは、洋服で言うなら「高級フォーマルドレスショップ」です(自ら”高級”呉服なんて名前についてるお店もありますよね)。しかも基本はオーダーメイドの店。

そんなオーダーメイド中心のフォーマルドレスのお店に、明日公園でピクニックなんですよ〜なんか手頃なワンピありますか? て行く人いないと思うんですけど、違いがわかっていないとそういうとんでもねぇ場所にとんでもねぇ無防備で飛び込むことになってしまいます。

高級呉服店側からすると売っている商品は次世代に受け渡すような、長く大切に着るための高級呉服。でもお客さんは一日着たら捨てたって良いくらいの気軽な物が欲しい。

お互いの希望がちぐはぐな中で、店は無茶な要望を言う客にいらだち、客はひたすら「良い品」をすすめられて怖い思いをすることになる…これがよくある「呉服屋は怖い」の原因です。

フォーマル用の着物が欲しいから相談に乗ってほしい、と訪れる分には高級呉服店はそれに見合った品を揃えた良いお店。実際、呉服店の新規のお客さんは、入学式用の着物を揃えたいという「礼装」を求める人がほとんどだと言います。キチンとした、どこに出しても大丈夫な着物を揃えてあるちゃんとしたお店は、カジュアル用の着物が欲しい人にとっては意味不明の高級品を押し付けてくる怖いお店すれ違いの悲劇です。

逆に、高級呉服を避けて、通常ファッションとしての着物を作ってるブランドや、言い方はアレですが「安服」としての着物を置いているお店に行けば悲劇は起きません。

絹で安い物なら古着。じゃんじゃか着たい普段着ならネット。そこから自分サイズや好きな素材を求めるなら着物屋さん、呉服屋さんと、行く先を目的によって変えればお互いにWin-Winのお買い物ができます

うちにもいろんなところで買ったいろんな着物があります。ハマった当初、リサイクルショップで買い漁った一枚もあるし、沼って最終的に「良い博多織の帯がほしい…」となった時に呉服屋さんで唸りながら相談した清水の舞台から飛び降りた(…)一枚もあります。でも値段は関係なく、どれもお気に入りの大事な着物。何より、その時々で適した場所で買ったからどれも安心して購入できました。

これは着物は正絹の訪問着だけど、難ありリサイクルだったから3000円?くらい。お気に入り。
これは結城風の紬の訪問着。こういうのは1から仕立てるとボーナス吹っ飛ぶ…
雑写メで失礼。これはネットで買った綿麻のプレタ。出来上がりを選んで買えば新品でも5000円くらい。

そもそも「呉服」は基本の値段が高いんですが、総シルクの布地を使って高等テクニックで作り上げた量産できない服ってなれば、着物じゃなくたって高いです。だからそういうものはそういうものとして置いといて、普段着用ならもっと違う種類の「着物」を選べばオッケーです。

今は、手軽な素材で自分たちが着たいおしゃれな物を作り出している着物ブランドがたくさんあります。新品ファッションアイテムだから値段は安くはないですが、化繊がメインだから扱いやすいし「呉服」に比べたら高くない。

だいたいのアイテムが普通のお洋服のお店と同じくらいだと思います。(さすがに着物本体となると生地のメーター数がすごいからちょっとお高くなっちゃいますけど…)

リサイクルも扱うセレクト系ショップならさらにお手頃になってきますし、ファッションとしての着物なら、いわゆる呉服屋さんよりもこういう絹以外の着物も厚く扱うお店をチェックするのが良いんじゃないかと思います。

自分が何を求めているか、お店は何を売りにしているかを事前に確認して、ズレの少ない場所に行けば怖い思いはしないですみます。

そこらへんは自分が利用したお店を中心に、ちょっと別にまとめました。ぜひ最初は安く試せるお店やあんまり商売っ気のないお店で、着物の買い物に慣れてみてください(※買いすぎ注意)。

それで、沼ズブズブになってボーナスは着物だわねフフフ…と思うようになったら、ぜひ呉服店に行きましょう。

ただし怖い呉服屋もある、という事実

悪い呉服屋さん、愛想も感じも良い場合が多いです。こんなわかりやすいワルイ人はあまりいない…

ただ、一つ言いたい。ここまではお互いの意識のズレが悲劇を生みますよね、お互い悪いわけじゃないのに、って流れでしたが、実際に悪い呉服屋さんも多いです。

カジュアルな服が欲しいんです…って来た初心者に、なるほどじゃあ紬がいいですよ、これなんかお値打ちで20万円のところを今なら10万で…とか言うクズな店が多すぎます。

これって、ジーンズ初めて買うんだけど普段履きでおすすめありますかって客に、これなんかいいですよっていきなり10万越えの超高級ジーンズすすめるみたいなもんです。そりゃ同じジーンズだけどそうじゃないでしょ…最初の一本ってそうじゃないでしょ……て話ですよね。

こういうお店はお客さんのことを本当に一ミリも考えてない。相手がよくわかってないならより高い商品売ったろ、というお店です。多少なりとも相手の希望を真剣に考えたら、扱いやすくて値段も手頃で日常的に履くなら、まずこれはどうでしょうって違う品が出てくるはず。着物だって同じです。

そういう、いくら良い品でも自分が求める物とズレた高額商品をすすめてくるお店は、ただお金を払わせたいだけの店だから、また来ます〜とかなんとか言ってすぐ出ちゃってOKです。その日じゃないとこの値段は無理、とか言われて逃さない姿勢を見せられたら、じゃあ近くでお茶飲んでからすぐ出直してきますねとか言って逃げてください。

店内は相手のフィールド、相手のマナエリアです。やばいと思ったら即脱出してください。

でもうっかりそんな店に行って、もしも、もしも押し切られて買っちゃって、でも家に帰ってじわじわと後悔が止まらない場合、クーリングオフ制度もあります。場合によりけりですが、適応できる場合は下記を参考に調べてみてください。

クーリングオフが適応される場合

キャッチセールス

店頭とかでアンケートやプレゼントで店内に誘導してから販売するパターン。そもそも着物屋で一見さんに店頭アンケートするような店は、ブラックの香りぷんぷんだから応えなくていいと思うよ! 買う前から謎のアンケで住所書かされるようなお店は注意です。

アポイントメントセールス

よくあるDMや抽選でお店に呼び寄せての販売。豪華プレゼントや激安商品などを餌にするパターンです。500円の半襟やお菓子プレゼントに釣られて店に入って50万の着物をすすめられる、そういうやつですね。

展示会販売

店舗以外での招待制の販売会。「着物の展示会」っていうのがだいたいコレで、逸品に囲まれチヤホヤされると頭に血が上って無い袖を振ってしまう人が多いです。ここは魔窟。良い物はある。が、値段は基本高い。買う気がある時以外は寄らないのが吉。

逆に言えばこの対象の方法の販売、クーリングオフで保護されないと危ないパターンが多いってことなので、催事参加の際はお気をつけて…。

もちろん怖くない呉服屋もある

良い呉服屋さんも商売人、信頼を寄せつつキチンと自分を持ってお付き合いするのが大切

あれこれ高級呉服を買うのに躊躇するようなことばかり書きましたが、もちろん着物が好きで、着物が好きな人に良い品を提供したいという気持ちでやってる良いお店だってたくさんあります

そういうお店と長くお付き合いできるようになれれば安心して高いものも安いものも楽しめるようになるので、まずは呉服屋さん、着物屋さんについて地元や行き先での情報アンテナを立ててみるのがオススメです。意外なところで気の合うお店があったりします。

種類や値段、相場など、着物が好きで興味があるから将来のために知りたい、と質問すれば、普通のお店ならちゃんと応えてくれますよ。

たとえば、木綿や浴衣なんかも扱っている着物屋さんは高級専門ではないということで、相談しやすい可能性が上がりますし、着付け教室を行なっている着物屋さんも初心者を対象にしているわけですからいろいろ聞きやすいと思います。

ただし無料や格安着付け教室からの展示即売ルートもけっこうあるから、そこは気をつけてほしい。それが悪いわけじゃないけど、時にそういうルートの即売では、否と言いにくい空気が見受けられます…。

また、高級品は普段着着物とはちょっとズレてきちゃうので本来はここでの話題ではないんですが、高級呉服を高い価格で買うのも、ちゃんと考えた上で納得の購入ならそれは良いお買い物です。おうちに帰って一晩寝てからも、良い買い物したなぁワクワク…早く仕立て上がらないかなワクワク…そう思えるお買い物は、誰がなんと言おうと自分にとっての心の養分

なかなかそんなにワクワクできる服とは出会えませんから、せっかくの運命の一枚はぜひいっぱい着て、そのお着物と寄り添って幸せな時間をたくさん作っていってほしいです。

時々は安いお店で楽しみつつ、信頼できる呉服屋さんとも出会えるのが一番ハッピー。極端に怖がらず、感じの良い店、値付けが極端ではない店など、少しずつ求める条件のお店を探して試して、お気に入りを見つけてみてください。

呉服屋自体は怖くないし、着物自体は詰んでない!

着物をファッションとしてもっと皆にも楽しんでほしいのに、なんか憂鬱な話しかないな〜!!! ということで、ちょっと視点違いでの文を書いてみました。

憂鬱な話も、裏を返せば本来は着物ってもっと気軽で楽しいものだから自由に楽しんで良いってこと! ちょっと強引だったかな…でも私はツイートを読んだ時にそう思いました。

というわけで、ちょうど良いお店で自分に合ったお買い物を楽しみ、気楽な着付けで着物ライフをエンジョイしましょう! ではでは。

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